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 Musical Dog




高木信哉
・スイングジャーナルのディスクレビューアー
・ジャズディスク大賞選考委員
・「東京JAZZ」オフィシャルライター



『ホーム/大野俊三』ライナーノーツ

人気トランペッター大野俊三の10作目に当たる最新作『ホーム』が、遂に登場した!

俊三は、力強さと繊細さを併せ持った不屈のトランペッターである。
単に巧いだけのトランペッターは数多くいるが、俊三のような困難を克服してきた人は他にいない。ニューヨークに進出して既に30年以上の月日が流れた。しかしその道は決して平坦ではなかった。俊三の涙と感動の足跡を、皆さまに知って頂きたい。そしてこのアルバムを聴いて欲しい。

俊三は、1949年3月22日、岐阜県岐阜市生まれ。68年に上京した。
俊三が注目を集めたのは、71年にジョージ大塚クインテットに加入してからだ。クインテットの演奏は、『ゴー・オン』(72年)と『イン・コンサート』(74年)に残されている。
72年、初リーダー作『フォルター・アウト』を録音。
74年、アート・ブレイキーの誘いを受け、ニューヨークに渡った。
アート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズ、ロイ・ヘインズ、ノーマン・コナーズのダンス・オブ・マジック、マチート&アフロキューバンズ、ギル・エバンス・オーケストラとの共演により、俊三の名は一躍世界に知れ渡った。リーダー作も『サムシング・カミング』(75年)、『バブルス』(76年)、『クオーター・ムーン』(79年)、『アンターレス』(80年)、『マンハッタン・ブルー』(86年)と順調に制作した。

そんな絶頂の最中、88年クリスマス・イブの日、自動車事故に巻き込まれ、前歯破損、上唇の筋肉断裂という致命的な怪我を負ってしまった。縫合された唇は、筋肉が繋がることはなかった。それは致命的な傷だった。トランペッターにとって歯の形や唇の感触が少し違っただけでも音が大きく狂ってしまう。どんなにあがいてもかつての音が戻ってこない。
しかし俊三は、決して諦めなかった。
さし歯を入れバランスを調整し、基礎から演奏法を学び直し、必死のリハビリを行い、バスター・ウイリアムス・クインテットで復活したのである。復帰後のリーダー作が、『マヤ』(91年)、『ライブ'94:テイク・オフ』である。

ところが96年、またしても大きな試練が襲った。首の後ろに激痛を感じ、病院に行くと、扁桃ガンだった。状況は深刻で、すぐに手術をしないと命の保証はないといわれた。成功しても唾液腺を切除しなければならなかった。唾液が出なければ唇は振動しない。つまりもうトランペットが吹けなくなるのだ。奥さんのカズコさんは、唾液腺を切らずに治療してくれる医者を探し回った。遂にハリソン医師に出会い、放射線治療と片側の唾液腺切除を併せて行うことにした。それならトランペットは、吹くことが可能なはずだ。手術は成功したが、放射線治療の副作用で、食事も取れず衰弱していった。

そんなある日、俊三が最も尊敬するサックス奏者ウェイン・ショーターから電話があった。
4ヵ月後、カーネギーホールへの出演依頼であった。ウェインは、俊三の調子を知っていながらの要請だった。「僕がバックアップするから出演してくれ」という温かい言葉に涙を流した俊三の病魔への必死の闘いが始まった。
しかし舞台の4日前、胃に直接点滴を行い、まだ絶対安静という状態だった。96年6月19日、俊三は、反対する医師を説き伏せ、チューブをはずし、激痛に耐えながら、カーネギーホールの舞台に立った。超一流の名プレイヤーたちと共に、力強い演奏を行う俊三に惜しみない拍手が湧いたが、病気と必死で闘っていることを知っているのは、俊三の家族とウェイン・ショーターだけだった。
98年には、ウェイン・ショーターのグループに招かれ、同年11月には日本にも来日し、好評を博した。2000年には、童謡など日本の古い名曲を集めた9枚目のリーダー作『ポエトリー・オブ・ジャパン』を発表し、全国ツアーも行った。本作は、『ポエトリー・オブ・ジャパン』に次ぐ記念すべき10枚目の作品だ。

それでは、『ホーム』を聴いてみよう。
演奏メンバーは、前作同様気心の知れたニューヨークの俊英たちである。優れた楽曲、斬新なアレンジ、グルーヴ感と詩情感に溢れた演奏、そのすべてが素晴らしい。ストレートに、ダイレクトに、魂の真ん中に響く傑作である!
俊三は、㈰㈪㈫㈬㈮㉀㈷でトランペットを、㈭と㈯ではフリューゲルホーンを吹いている。
また作曲にも才があり、㈰㈭㈮㉀の4曲が、彼のオリジナルである。
ご機嫌なグルーヴに満ちた「ゴー・オン」で、まずスタート。俊三のオリジナルで、ジョージ大塚クインテットの『ゴー・オン』(72年)の標題曲を自らリメーク。
㈪は、パナマの実業家カルロス・アルマランが、55年に作ったボレロの曲。トリオ・ロス・パンチョスによって、60年に発表され大ヒットした。哀愁たっぷりのトランペットが涙を誘う。
㈫と㈷は、日本の唱歌を現代のジャズに変身させた。あまりの格好良さに驚嘆する。
㈬は、何と徳島の「阿波踊り」である!
㈭は、標題曲。10年前、ベルリンに向かうバスの窓から美しい夕焼けを見たときに浮かんだオリジナル曲。
㈮は、昨年の東京国際映画祭に出品された映画『ほたるの星』のテーマ(オリジナル)。㈯は、メンバーのジョージ・コリガンの曲。
㉀は、76年に100万枚を超すヒットになったノーマン・コナーズの『ユー・アー・マイ・スターシップ』に収録された俊三の最初のヒット曲。子供たちが飛ばすシャボン玉が、イメージになっている。

それからアルバム『ホーム』の発売を記念して、4月2日から5月19日まで、30箇所に渡る全国ツアーも開かれるから楽しみである。アルバムの感動を、生で味わってみよう!
(1/9/2005 音楽ライター、高木信哉)

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